Works
作品実績
金蔵院はけの墓苑
所在地 :
東京都小金井市
用途 :
礼拝堂+納骨堂
構造 :
鉄筋コンクリート造
規模 :
地下1階 地上2階建て
敷地面積 :
1,575.18㎡
延床面積 :
545.06㎡
竣工年月 :
2023.09
撮影:
鳥村鋼一
「はけ」という場所性
国分寺崖線に位置するこの敷地は、国分寺市から三鷹市までの東西に延びる「はけ」と呼ばれる崖地にあり、崖の中腹からは古来より重宝された地下水が湧き出ている。金蔵院は小金井市で最も古い寺院で、正門からは室町時代から参道だったであろう「はけの道」が始まり、一定の軸線をもっている。境内に隣接した西側の一団の土地を数年前に所有したことから、ここに新たに礼拝堂や納骨堂を建築する計画が始まった。外構では墓地、湧水を活用した小川、崖には八十八箇所巡拝路も計画された。八十八箇所巡拝路とは、四国にある弘法大師・空海ゆかりの88カ所の仏教寺院を巡礼するための道であり、いわゆる遍路のミニチュア版である。ほこらや踏み砂などの適切な設えをすることで、四国遍路を行ったのと同等の価値があるとされる。
曲面造形と連続アーチ
建築は敷地形状に合わせて弓なりの平面外形とし、屋根もゆるやかな曲面を描く。軒は深く出しむくりをつけ、既存の本堂と呼応しながら新旧の建物がたたずむ風景を期待した。西面の道路側は屋根の曲面がシームレスに壁となり地面に到達することで、ヴォリューム感を軽減する謙虚さと、曲面造形の主張を併せもつ表情をみせている。
曲面をもつリニアな外形の中に、アーチ形開口のある耐力壁を等ピッチで配置し、この建物内の空間を分節し接続する。アーチを通過するたびに空間の異なりを感じることが、人間の死と切り離すことができないこの建物にふさわしいと考えた。納骨堂は屋根の曲面に応じた高低差に富む天井の空間性が確保できるが、屋根勾配と直行方向に設けた木製ルーバーがさらに助長している。
明るい納骨堂と納骨壇
設計当初から「明るい納骨堂空間」をつくることが命題だった。納骨堂は午前も午後も直射光が期待できる配置なので、できるだけ大きく確保した開口部に障子を貼り、直射光を乱反射させた。
納骨壇は均質化されたロッカー形式にすると扉の面が開口部をふさぎ暗くなる。そこで、ところどころに隙間を開けて自然光を取り込みながらランダムなパズルのように組み合わせる造形とした。さらに、納骨壇の扉を開けると骨つぼの奥から障子を介した自然光が後光のように内部を照らしてくれる。
納骨壇は通常、目線の高さのブースから売れていき、最上段と最下段はいつまでも売れ残る。パズルのような納骨壇のつくりかたはどのブースにも個性がうまれるので販売上も有効なのではと期待していたが、開館して数カ月間の売れ行きは快調だと聞く。
石・水・緑のランドスケープ
新たにつくる墓地には、市松模様に配置された428カ所の石碑と、1,052カ所の樹木葬のスペースが用意されている。現在芝生になっているエリアも売れ行きに応じて随時埋まっていく予定だ。
八十八箇所巡拝路には文字通り88体のデザインの異なる石のほこらと踏み砂がある。人の手でつくられた数々の立体的な石の存在感がランドスケープデザインの一端を担っている。
はけの湧水は地中の湧水パイプで1カ所のピットに集められ、水が溜まるとオーバーフロー管から小川に流れ込む仕組みだ。電気や機械の力を使わないパッシブデザインである。小川は水の落ちる音を演出するために、何カ所か意図的に落差を設けた。水の音が感じられる落差はスタディの結果120mm以上とした。
既存の境内にはこれまでの歴史を感じさせる大木や丁寧に剪定された植栽が豊富にあるが、新たな敷地にも10年後に既存のそれらとなじむように造園計画を行った。1種の樹木が病気になっても全滅せずに互いの樹々が補填しあう雑木林のメカニズムを参考に、既存の植栽とはあえて樹種の異なる植栽を施すことで、境内全体にわたり健全な成育となるよう心掛けたものである。